Share

第十四話 先制攻撃

last update publish date: 2025-07-12 06:18:16

第十四話   先制攻撃

「お前、何を言っているんだい?」 采が驚いている。

「いえ、なんとなく言っただけですが……すみません」 梅乃は、しきりに謝っていた。

 采は無言で、そろばん弾きをしていた。

「んっ? これは……」

 (これは正解かもしれないね……あの子、なんていう事を言いだしたんだ……)

 その後、三原屋は薬屋を呼んでいた。

 「この人数をですね……かしこまりました」 薬屋は頭を下げて、見世を後にしていった。

 「ま、まさかお婆……」 梅乃は驚き、采の元へ歩み寄った。

 「お前が言ったんじゃないか……」 采はキセルに火をつけた。

 梅乃は、こんな事態になると思わなかったが、これは良い機会だと思った。

 (これ以上、姐さんたちと離れたくないから……) 梅乃に冷たくあたる妓女もいるが、大体の妓女は優しかった。 これは玉芳の功績でもあった。

 そんな時、采は梅乃と小夜に役割を与えていく。

「……はい」 梅乃と小夜は頷いた。

それから梅乃と小夜は妓女に付き、お世話をしていく。

そしてメモをする。 字の練習にもなるし、作法や着付けの勉強にもなった。

「これです……」 梅乃と小夜は、メモを采に渡した。

「汚い字だね……もっと、しっかり書きな!」 そう注意されることも多いが、このメモは役にたっていった。

このメモから一週間、これが役に立った。

着替えを手伝うこと一週間、梅乃と小夜は妓女の身体を見ていた。

“梅毒の症状が、身体に出ているかのチェックである ”

普段は衣服を着ていて見えない部分を、着替えの手伝いをしている二人には無防備に見せてしまうからである。

そして

「お待たせしました。 お薬です」 薬屋に頼んでいたのは梅毒の薬であった。

采は、妓女の全員に梅毒の薬を飲ませた。

現代であれば、症状の無い者や感染していない者に飲ませるのは異常なことである。

副作用もあり、逆に体に異変があっても困るからだ。

ただ、吉原では大問題であり、三原屋でも存続の危機でもある。

妓女たちは黙って受け入れ、薬を飲んでいた。

薬を飲み続けて一か月、梅毒の痕跡《こんせき》があった妓女からも跡が消えだしていた。

そして、薬による副作用も妓女たちからの訴えも無かった。

実質、医者に診せるより金が高くなってしまったが、命の問題や梅毒で妓女を失わずに済んだと思えば安く済んだと思うようにしていた。

「お前たちのおかげだよ」 文衛門と采は、頭を撫でてきた。

(よかった) 梅乃は単純に嬉しかった。

その様子を、文衛門と采は見ていた。

その後、三原屋では薬の処方を武器にしていた。

『梅毒の薬を妓女に処方しており、安心して遊べます』 と、良いアピールであった。

そして、この安心感から三原屋の人気は さらに増えていく。

たくさんの客が押し寄せる為、薬でどうにかなる……というレベルの話しではなくなっていたが、人気になって安心していた。

「姐さん、失礼しんす……」 梅乃が勝来の部屋に入ると、

「お前、たいしたものだよ」 勝来は、笑顔で梅乃を讃えていた。

「いえ……」 梅乃は照れている。

「この見世の数十人の命を救ったんだ。 私は嬉しいよ」

勝来の言葉に、横にいた菖蒲も頷いていた。

この先制攻撃に、三原屋は活気づいていった。

そして噂は広まり、各見世も導入していくことになるのだった。

結果、梅乃の奇策は三原屋の数十人の命だけでなく、他の見世の妓女や客の命まで救うことになっていく。

流石に、禿の提案とは噂にならなかったが、梅乃は陰のヒーローとなっていた。

数日後、鳳仙楼の主人と花魁の鳳仙が三原屋にやってきた。

「噂で聞きましてね~ 誰が提案したのです?」 鳳仙楼の主人が、文衛門に聞いていた。

「実は、あそこの禿の梅乃が言い出しまして……」 文衛門が答えた。

(梅乃が……?) 鳳仙の目が梅乃に向いた。

鳳仙楼の主人は、薬屋を紹介してもらい先に帰っていくと

「梅乃……」 鳳仙が梅乃を呼んだ。

「なんでしょう? 鳳仙花魁」 

「なぁに……今回は吉原を救ってくれて、本当にありがとう」 鳳仙は綺麗な姿勢で梅乃に頭を下げた。

それを見ていた三原屋の妓女が驚いていた。

当然ながら梅乃も呆気に取られていた。

「あの……鳳仙花魁」 

「この世界に長居すると、商売しか見なくなるもんでね……こんな可能性すら見えていなかったよ。 本当に、お前には感謝しているよ」

そう言って、鳳仙も帰っていった。

あの気高き花魁が、他の見世の禿に頭をさげる姿勢に全員が驚いていた。

そこに采が大部屋にやってきた。

「お前たち、あの鳳仙が梅乃に頭を下げる意味が分かるかい?」

采が話し出すと、妓女たちは静かになった。

「今では、鳳仙が吉原で一番の妓女さ。 なぜに一番になれるか分かるかい? それは人としての姿勢さ。 この姿勢こそが人を繋ぐのさ。 だから売れる妓女なんだよ」 采は周囲を見渡しながら言った。

これは、少しばかり売れて胡坐《あぐら》をかいているようじゃ、すぐに落ちていくと言う戒《いまし》めでもあった。

幼いなりに梅乃も理解していた。

この話しは永遠に忘れまいと胸に仕舞い込むのであった。

翌日、梅乃と小夜は長屋に来ていた。

「安子姐さん、体調はどうです?」 小夜は、安子の身体を拭きながら話している。

「うん。 まずまずかな……」 安子は発症したばかりで、寝込むほどではなかったが、身体の発疹《ほっしん》の範囲が大きくなっていた。

「しっかり休んでください……」 小夜は、安子が安心できるように最善の言葉を掛けていた。

そして、三原屋では新たな感染者の報告は出なくなった。

「梅乃、小夜、しっかり見てくれな」 采は気を緩めることなく、梅乃たちに監視のような役目を継続させていた。

(なんか、姐さんたちが罪人みたいだな……)

そんな気がしてきた梅乃である。

そして吉原でも、一旦は落ち着いていた梅毒の猛威が再び押し寄せてくる。

これは客だけのせいではなかった。

幕府が倒れ、明治に入ってから急速な国際交流により病気も様々な形でやってきていたのだ。

(ここ最近、異人《いじん》をよく見るな……) 梅乃や小夜も、吉原でチラホラと外国人を見かけるようになっていった。

これは貿易の商談として、吉原で接待をするようになっていたからである。

これこそが病気を加速させている原因のひとつだ。

しかし、客を選んでいる場合ではない見世や妓女は黙って受け入れるしかなかったのだ。

ある時、一人の医者が現れた。

小夜が買い物を言い渡されていた時のこと……

小夜は食材などを買いに来て、大量の品物を抱えていた。

「こんなに沢山の買い物で、全部持てるかい?」

小夜の心配をしていた店の主人に

「大丈夫です」 そう言って小夜は店を出て、仲の町を歩いていた。

しかし、人通りの多い仲の町でヨロヨロと大荷物を担いでいた小夜は、人とぶつかり倒れてしまった。

「―うっ」 荷物は散乱し、小夜は頭を押さえたまま動けなくなっていた。

「大丈夫かい?」 そんな言葉は出るが、ここは吉原である。

女性を買いたがる男衆《おとこしゅう》は、先を急ぐ者ばかりだ。 倒れている小娘を心配する者はいなかった。

そこに、中年の男性が現れ

「お嬢さん、大丈夫かい?」 そう言って小夜を抱きかかえた。

「―すみません。 ありがとうございます……」 小夜はお礼を言った瞬間に、ガクッと気を失ってしまった。

男性は小夜を抱えたまま叫んだ。

「すみません。 この子、どこの子か知らないですか?」  

男性は何度も叫んだ。

すると、ある男性が出てきて、

「この子……三原屋の禿じゃないか?」 男性が言うと

「それは、何処の見世でしょう?」 助けた男性が聞くと、場所を教えてもらった。

「あの~ すみません……」 小夜を抱えた男性は、三原屋の入口で声を出した。

「はい、なんでしょう?」 これに対応したのは片山である。

「はい、えっ? 小夜?」 片山が驚いていた。

「そこの大通りで倒れていまして、周りの人に聞いて連れてきました」 小夜を助けた男性が経緯を説明していた。

「ありがとうございました。 こちらへ……」 片山は、男性を応接間に案内し、文衛門を呼んだ。

「あの……親切にして頂き、ありがとうございました」 文衛門は感謝の言葉を言う。

「いえ……それに、特に外傷もなくて良かったです」 男性は言った。

「もしかして、お医者様で?」 

「はい。 医者なのですが、診療所も持たずに放浪《ほうろう》していまして……」 男性は恥ずかしそうに言った。

「あの……お名前は?」 文衛門は、医者で診療所を持っていないことに不思議を感じていた。

「赤岩《あかいわ》 と言います」

「そうですか……よかったら、ウチで働きませんか?」 文衛門は、唐突《とうとつ》に言い出した。

「えっ?」 赤岩は驚いていた。

「この吉原は、病気と背中合わせの場所です。 もし、梅毒などに詳しいようでしたら診ていただきたいのです」 文衛門は、初対面の赤岩に頭を下げた。

「……わかりました。 お部屋をお借りしても?」

「もちろんです。 こちらへ」 文衛門は、一階にある小さな部屋を赤岩に与えたのだった。

赤岩が小さな部屋に医術の器具を並べていると、

「まず、小夜を診てもらえますか?」 文衛門は、赤岩の部屋に小夜を運んできた。

そして、赤岩の診たてで、小夜は脳震盪《のうしんとう》と判断した。

「しばらくは、そっとしておいてください」 そう言って、小夜を休ませる。

後日、長屋での診察が始まった。

妓女が安心して働けるよう、先に医療を導入した三原屋の噂は広まっていくのであった。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第百二話 後半戦

    第 百二話    後半戦 玉菊灯籠が終わり、夏の暑さも落ち着いた頃 「一花、お婆の様子はどう?」 「はい。ゆっくりですが、歩いています」 采の足の怪我も落ち着いてきて、昼見世の時間には遣り手の席に座れるまで回復していた。 「なんだい? そんな大騒ぎすることじゃないって、言っただろ」 采の言葉も荒く、以前のような元気が戻ってきた。 「はい、お婆……」 梅乃が肩を貸し、遣り手の席まで誘導すると 「すまないね」 梅乃には優しい言葉を掛ける。  「少し丸くなったのかしら……」 小夜は隠れながら様子を見ている。 「で でも、優しい時の後って……」 古峰も同じように隠れながら見ていた。 「じゃ、いってきます」 梅乃は元気に登校していく。 “タッ タッ タッ―” 三枝が後を追って走り、「いってらっしゃ~い」 大きく手を振っていた。 学校に着くと、「東郷様、先日はありがとうございました」 「おはよう、梅乃ちゃん。 いいえ、可愛い洋装が見れて良かったよ。 小夜ちゃんも素敵だった……」 梅乃は東郷の優しさに笑顔になっていく。 少し前は「羅紗緬」と呼ばれ落ち込んだ時期もあったが、東郷が笑顔にしてくれたことで梅乃は元気になっていった。  梅乃が学校の廊下で男子生徒の噂話を聞いてしまう。 「なんでも九州で士族たちが反乱を起こしているらしいぞ……」 明治に入り、廃藩置県により全国で三十六県になっていた。 その九州で士族の乱が起きてい

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第百一話 舞踏会

    第 百一話    舞踏会「それでは今日の授業はここまで……」先生の言葉で授業が終わる。 梅乃が慌てて帰り支度をすると「梅乃ちゃん、今度の土曜なんだけど……」 東郷が話しかけてくる。 「ぱーてぃ?」 梅乃がポカンとすると「今度の土曜にエドガー先生を招いて宴をするんだ。 よかったら梅乃ちゃんも来てくれないか?」「あぁ、宴席の事ですね。 でも、実家の事もあるし……」采が足を痛めてからは文衛門が昼見世の時間の遣り手をして。夕方から梅乃と交代するようになっていた。 梅乃は笑顔で「残念ですが、私は実家の会計をしなくてはなりません…… 皆様で楽しい宴席をお過ごしください」 そう言って吉原に帰っていった。「へぇ~ 学校にも宴席があるんだね……」 梅乃から聞いた采が驚いている。「なんでも、ぱーてぃ……とか言うみたい」 梅乃は采の足に薬を付け、包帯を巻いていく。 薬は梅乃が調べて学校で調薬をしていたものである。「しかし、お前が薬なんか作れるようになるなんてね…… もう、岡田より凄腕になったんじゃないのかい?」采がケラケラと笑いながら言うと、岡田が渋い表情になっていく。「ところで梅乃、身長はどれくらいだ?」 岡田が訊くと「ここ

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第百話 潜む悪意

    第百話    潜む悪意 梅乃が前期の試験を終えると三原屋の手伝いに追われることがある。 「梅乃~ ちょっといいかい?」 采は足を怪我してから部屋にいる事が多くなっていた。 「はい、どうしました?」 梅乃は采の前で正座をしている。 「しばらくは千に遣り手を任せてみようと思うのだが……」 「千姐さんですか? それはちょっと……」 梅乃が頭を掻きながら浮かない表情をすると、 「真面目でいいと思うんだが……」 采は梅乃の表情を確かめていた。 「そういう部分では良いと思うのですが、千姐さんは顔の認識が出来ないです。 馴染みの客も覚えられないとなると……」 梅乃の言葉で采も黙ってしまう。 客によっては勘定が微妙に違う場合もあるからだ。「誰ならいい?」 この言葉に梅乃も悩んでしまう。 迂闊に遣り手を指名すると、妓女として失格の烙印を押してしまうことになるからだ。 「せめて、昼間だけでも出来るなら…… 夕方には私も帰ってきますので、昼見世だけでも」 二人の密会は一時間にも及んだ。 そして、テスト的に頼んだのが…… 「なんだい? 私に用事って……」 やってきたのは玉芳である。 「すまないね…&

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第九十九話 危うき情勢

    第九十九話    危うき情勢 「おはようございます……」 朝早くに目覚めたのが二葉である。 二葉は大人しめではあるが、しっかりした子である。 一番年上である一花は真面目で働き者。 菖蒲に似たタイプだ。 そして、なかなか起きないでスヤスヤと眠っているのが三枝。 好奇心旺盛で、梅乃に懐いている。 後朝の別れの時間になると、廊下が騒がしくなり禿たちが目を覚ます。 “スッ―” 襖を開け、客が通ると全員が頭を下げて見送る。 「ありがとうございました……」 他の客もいるため、静かに声を出すと 「なんだ、ここは嬢ちゃんたちの部屋だったか。 起こして済まないね」 客が笑顔で言ったりもする。 ここは大見世であり、客層が良い。 禿たちにも優しく接してくれる者も多いのだ。 「あれ? 梅乃は?」 小夜が訊くと、全員が首を振る。 その頃、梅乃は岡田の部屋で眠っていた。 遅くまで勉強をしていて、そのまま眠ってしまったらしい。 「うわっ――?」 岡田が寝起きに大声を出す。 「んっん……」 梅乃がスヤスヤと寝息を立てていると、 「お前、なんでここで眠っているんだ?」 岡田は焦っていた。 「先生、おはようございます」 目が半分しか開いていない梅乃が起き出す。 それから数分の無言の時間が流れ、ようやく目が覚めた梅乃が 「それで、先生は何を怒っているの

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第九十八話 試験

    第九十八話    試験 夏になり梅乃の前期の試験が近づいてくる 。 「どう? 梅乃、進んでる?」 小夜が心配そうに顔を出すと 「それなりに…… 見世の方はどう? 新造も大変でしょ?」 「ううん…… 引っ込み新造だから、暇なくらいだよ~ 古峰が頑張っているしね」 小夜は笑いながら話している。 夏になってくると自然と客は増えてくる。 気温が高いと開放的になり、散財する客も増えてくるものだ。 また、梅乃の試験と合わせたように玉菊灯籠も近くなる。 吉原を代表するイベントであり、見世や妓女たちの今後を左右する試練でもあるのだ。 梅乃も勉強に力を入れていく。 隣では岡田が付いて教えるようになっていった。 「梅乃、薬草の効果を知りなさい。 薬を知れば病気が分かる」 「わかりました」 薬学は後期の試験、前期の為の勉強をしたいのだが病気を知るには薬学も必要になってくる。 梅乃は知識として頭に叩き込んでいく。 朝、学校に向かうと 「おはようございます……」 梅乃が挨拶をするも、生徒たちは梅乃を畏敬の目で見るようになっていた。 (ラシャメンとでも言いたいんだろうな…… それでもいい。 まずは試験だ) 梅乃は頭を切り替え、勉強に集中していく。 解剖学になると梅乃は楽しそうにしている。 教科書では文字の知識ばかりなので、身体の秘密を知るのが楽しかった。

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第九十七話 ラシャメン

    第九十七話    ラシャメン「いってきます……」 梅乃が学校へ向かう時「いってらっしゃ~い」 一番年下の三枝が大きく手を振って見送る。(かわいいな~) 梅乃は三枝の頭を撫で、元気に登校していく。学校へ着くと、教室が騒がしい。 その中で東郷だけがソワソワしていた。なぜなら学校で梅乃が吉原から来ているという話しが駆け巡っていたからである。実際、梅乃は遊女ではない。 それを東郷は知っている為に噂を否定したいのだが、逆に『遊女にハマった男』と言われるのを恐れてしまったのだ。学校に通っている者は医師の子供や士族など、金持ちが多い。 そうした者は吉原の、遊郭の娘である梅乃を卑下して見るようになっていたのである。(梅乃ちゃんは、そんな娘ではない……)一緒に麻疹と戦った者として否定したいのだが、先日に言われた事を気にしていたようだ。『これは真《まこと》の事ですから…… それに、実家が遊郭だからって恥じることもございません。 噂や他人の目が気になるようでしたら、私と一緒に居ない方がいいと思います』 梅乃が言った言葉が東郷の脳裏をよぎっていた。(でも……)東郷がチラッと梅乃を見ると、梅乃は黙って教科書を読んでいた。そして昼になり、梅乃は一人で弁当を口にする。東郷も梅乃の様子を見ながら

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第十七話 年の瀬の騒ぎ

    第十七話   年の瀬の騒ぎ「おはようございます」 梅乃と小夜は、早起きをして吉原を散歩していた。妓女たちは、朝の六時に客を見送る『後朝の別れ』を済ませてから寝床に入り、十時くらいまで仮眠に入る。梅乃と小夜は、子供なので夜の九時には寝ている。 朝の六時には起きて、妓女の見送りには息を潜めて邪魔をしないようにしているのだ。『後朝の別れ』が済むと、梅乃と小夜が慌てて小用に向かう。その後、時間潰しに吉原の中を散歩するのが日課だった。「もう寒いね……」「うん、早く帰ろう」 そう言って、急いで妓楼に戻る。「おはようございます。 潤さん」 梅乃と小夜は、毎朝 見世の前を掃除する片山に挨拶を

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第十六話 足抜

    第十六話   足抜《あしぬけ》秋から冬へと向かう頃、寒さも一段と増してきていた。「梅乃、ちょっと来な」 見世の中から采が呼ぶ。「はい。 なんでしょうか?」 梅乃は、采の元に行くと「ちょっと、噂《うわさ》を拾ってきてくれないかい?」 噂を拾うとは、“吉原の中で噂を聞いてこい ” と言うことだ。大体は引手茶屋に行き、馴染みの主《あるじ》であれば噂や情報を提供してもらえるが、ここ最近では聞かなくなっていたようだ。「ウチの評判も気になるしね。 吉原細見の他にも情報がないかと思ってね~」 「わかりました」 梅乃は仲の町を歩き、聞き耳を立てていた。(確かに、子供になら口が滑ることもある

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第十五話 恋慕

    第十五話   恋慕《れんぼ》秋になり、人肌恋しい季節になってきた。これは現代でも変わらないことであろう。「なんか、このままも寂しいわよね……」 と、ある妓女が言う。「このままって?」 「この仕事をして、年季が明けても身請けもなく、最後は河岸見世とか……」多くの妓女の悩みでもある。妓女が身請けをされるのは、花魁クラスである。 稀に中級妓女でも身請けはあるが、ほんの一握りの話しである。この時代にマッチングアプリなんていうものは無く、心を満たされる妓女は、ほぼ存在しない。妓女を身請けするというのは、男性にとっても莫大な金が必要となる。ここで妓女を指名するのは金持ちでも妻帯者が多

  • ありんすっ‼ ~吉原、華の狂騒曲~   第十三話 忍び寄る猛威

    第十三話   忍び寄る猛威三原屋が勝来をトップに据えて三か月。段々と勝来も、自分の立ち位置に慣れてきた頃である。「えっ? 私が?」 菖蒲は驚いていた。菖蒲は中級妓女として二階の部屋を使わせてもらうようになった。つまり出世である。夜の営みなどがある場合は、下女であれば金額も安いため 大座敷にパーテーションを立てての行為であり、横の営みなどが丸聞こえである。しかし、恥ずかしいなどとは言っていられない。 とにかく稼がないといけない立場である。今回、菖蒲が中級妓女になり、二階の部屋が徐々に埋まってきた。これは酒宴の間を含む、部屋数が限られるからだ。ここで、二階を使うのが勝来、信

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status